作品を産み出す作家の手しごと展(シリーズ 第一回)
未来工房通信
タカムラ家具を訪ねて(シリーズ 第一回)
シリーズ 第一回
タカムラ家具を訪ねて
体の内側を育てるイス。
久留米市で50年以上の歴史をもつ家具屋の老舗、タカムラ家具。店主の梶原さんを訪ねると、挨拶もそこそこに「まずは体感してください」と、ある椅子へ。「日本人は、正しく座ることに慣れていません。姿勢をよくしなさいと大人が子どもに言いますが、子どもは大人の真似をするもの。その大人の姿勢がよくなければ、子どもが正しい姿勢を身に付けるのが難しいのは当然です。」その根本には、日本と欧米諸国の、生活習慣や考え方の違いがあるのだそうです。
たとえば、小学校入学時に学習机を購入するのは、多くの子どもたちやその親にとっての一大イベントです。ここですでに「学習机を購入する」と書いたように、その主役は机で、椅子はただの付属品として扱われることがほとんど。しかし海外では、直接体に触れ、長い時間を過ごす椅子は、体の一部とも考えられています。そのため、机同様に大切に選ばれているのです。梶原さん曰く、そもそもどうして姿勢をよくしないといけないのか?という点にも考え方の大きな違いがあるそう。日本では、姿勢を注意するときの枕詞には「みっともないから」「お行儀が悪いから」というような、見え方を気にする言葉がよく使われています。これが欧米では「体に悪いから」「病気になるから」に変わります。姿勢が悪いことが「今どう見えるのか」ではなく、「この先どのように影響してくるのか」を見据えているのです。
そんな話を聞きながらしばし椅子に体を預け、起き上がってみると、驚くほど自然と背筋が伸びるのを感じました。背骨のひとつひとつが正しく積み上げられ、その上に頭が乗る。正しい姿勢というのはこういうことなのかと驚いてしまいました。「この椅子が約30万だと言うと、多くの日本人は高いといいます。しかし生産国の人は、マッサージチェアには同じ金額を払うのに、どうして?と不思議そうに尋ねられるんです。」と梶原さんは言います。また、姿勢からくる体の不調に対して、姿勢を正すよりもまず、マッサージ等で今ある痛みを和らげようとすることも、不思議に思われることのひとつなのだそう。
梶原さん自身も、首と腰の痛みをやわらげるために長く整体に通っていたそうですが、椅子の座り方を正したことで、背筋が伸び、この5年は行かずにすんでいるとか。海外の方と交流する中で、疑い無くおこなっていることが実はそうではないこともある、そう気付いたのだそうです。
グラビティ/ノルウェー家具
重心を背中側に傾けると、水平状態になれ、無重力の感覚を得られるリクライニングチェアです。
おもちゃで遊び、学ぶ。
タカムラ家具では、ヨーロッパのおもちゃも多く取り扱われています。日本では今や百円均一の店でも手に入るおもちゃがたくさんあり、そういった物は往々にして遊び方も単純で分かりやすくできています。その一方で、簡単過ぎるために、子どもたちはすぐに飽きてしまう。ヨーロッパのおもちゃは、少し値段も高く、少し難しいのですが、その分たくさんの遊び方があります。買い与えるだけでなく、大人も一緒に遊び方を考えられるものが多いのだそうです。「考え方にしても、生活習慣にしても、まずは様々な違いがあるということを、ここでは伝えたいと思っています。その違いを理解したうえで、必要なものを選んでほしい。」と梶原さんは熱く言います。
インターネットで調べれば、商品の情報がすぐに手に入る今、誰しも「知ったつもり」になっていることが少なくありません。現に、今回梶原さんが教えてくださったことは、インターネットでは出会えないことばかりです。違いを知って選ぶためには、まず、簡単に手に入る情報だけが全てだと思わないことが、大切なのかもしれません。
50年、たくさんの大人や子どもたちの姿を見てこられたからこそのアドバイスがあります。ぜひお店で体感してくださいね。
工芸品のようなおもちゃたち。良いものは飽きることなく愛着を持って楽しめる。きっと、子どもも同じかもしれない。
考えられたおもちゃは、集中力や工夫が身についていきそうな気がする
福岡県久留米市通町103-10●TEL/0942−38-6439●営業時間/9:30〜19:00●定休日/なし
◯西鉄久留米駅出口から徒歩約9分 ◯櫛原駅出口から徒歩約13分